大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 平成4年(特わ)1119号 判決 1992年12月04日

本店所在地

東京都千代田区神田岩本町一番地

株式会社

メモリアル

(右代表者代表取締役 行方栄治)

本籍

東京都足立区関原一丁目六四六番地

住居

横浜市西区浅間台一〇九番地の一八

会社役員

行方栄治

昭和二五年一二月六日生

右両名に対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官蝦名俊晴、弁護人成田吉道、同福島啓充、同澤田直宏、石井春水各出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人株式会社メモリアルを罰金一億円に、被告人行方栄治を懲役二年にそれぞれ処する。

被告人行方栄治に対し、未決勾留日数中一二〇日を右刑に算入する。

理由

(罪となるべき事実)

被告会社株式会社メモリアルは、東京都千代田区神田岩本町一番地に本店を置き、ゴルフ会員権の募集販売等を目的とする資本金四〇〇〇万円(平成二年三月一五日以前は一〇〇〇万円)の株式会社であり、被告人行方栄治は、被告会社の代表取締役としてその業務全般を統括していたものであるが、被告人行方は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、ゴルフ会員権の販売手数料の一部を除外するなどの方法により所得を秘匿した上、

第一  昭和六三年九月一日から平成元年八月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が七億九三八二万二九六五円(別紙1の修正損益計算書参照)であったにもかかわらず、同年一〇月三一日、同区神田錦町三丁目三番地所轄神田税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が一五六一万六九四五円で、これに対する法人税額が五四七万五九〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(平成四年押第九五六号の1)を提出し、そのまま法定の納期限を徒過させ、もって不正の行為により、被告会社の右事業年度における正規の法人税額三億三二三二万二四〇〇円と右申告税額との差額三億二六八四万六五〇〇円(別紙3の脱税額計算書(1)参照)を免れ

第二  平成元年九月一日から同二年八月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が九億一二九〇万七七七二円(別紙2の修正損益計算書参照)であったにもかかわらず、同二年一〇月三一日、前記神田税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が三一二一万三四七七円で、これに対する法人税額が七八一万四六〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(前同押号の2)を提出し、そのまま法定の納期限を徒過させ、もって不正の行為により、被告会社の右事業年度における正規の法人税額三億六〇四九万二二〇〇円と右申告税額との差額三億五二六七万七六〇〇円(別紙3の脱税額計算書(2)参照)を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示全部の事実について

一  被告人行方栄治の当公判廷における供述

一  被告人行方栄治の検察官に対する供述調書(平成四年五月一三日付〔九枚綴りのもの〕、同月二一日付、同月二五日付〔二通〕)

一  行方弘明の検察官に対する供述調書(二通)

一  大蔵事務官作成の受取手数料調査書、受取利息調査書、事業税認定損調査書、損金算入地方税利子割調査書

一  登記官作成の登記簿謄本及び閉鎖登記簿謄本(二通)

判示第一の事実について

一  被告人行方栄治の検察官に対する供述調書(平成四年五月一四日付、同月一六日付)

一  大蔵事務官作成の商品売上高調査書、期首商品棚卸高調査書、商品仕入高調査書、販売手数料調査書、支払手数料調査書

一  押収してある確定申告書一袋(平成四年押第九五六号の1)

判示第二の事実について

一  被告人行方栄治の検察官に対する供述調書(平成四年五月二〇日付)

一  大蔵事務官作成の従業員賞与調査書、保管手数料調査書、受取利金調査書、株式売買益調査書

一  大蔵事務官作成の報告書

一  押収してある確定申告書一袋(前同押号の2)

(法令の適用)

被告会社の判示各行為は、法人税法一六四条一項、一五九条一項に該当するので、情状によりそれぞれ同法一五九条二項を適用し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四八条二項により各罪について定めた罰金を合算し、その金額の範囲内で被告会社を罰金一億円に処し、被告人行方の判示各行為は、法人税方一五九条一項に該当するので、所定刑中懲役刑を選択して、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により犯情の重い判示第二の罪の刑に決定の加重をし、その刑期の範囲内で同被告人を懲役二年に処し、同法二一条を適用して未決勾留日数中一二〇日を右刑に算入することとする。

(量刑の理由)

本件は、ゴルフ会員権販売会社である被告会社が、昭和六三年から平成二年にかけてゴルフ会員権の販売を急激に伸ばし、多額の手数料を得たにもかかわらず、それら手数料の一部を隠匿するなどして、法人税を脱税したという事案であるが、脱税額が、平成元年八月期で約三億二六八四万円、平成二年八月期で約三億五二六七万円、合計で六億八〇〇〇万円近くに上り、ほ脱率も二期通算で約九八パーセントと高いものになっている。脱税の態様は、二支店分の売上げをそのまま架空の他の会社の売上げであるかのように装って、右支店扱いの販売手数料をすべて除外したり、架空のゴルフ会員権の販売を下請けさせたように装って、架空の支払手数料を計上するという、計画的かつ大胆なものであり、脱税の動機も、被告会社が事業不振に陥ったときに備え、あるいは、更に資金を蓄えて被告人行方のゴルフ場のオーナーとなる夢をかなえようとしたというものであって、特段酌量すべきものではない。そうすると、本件犯行は、その脱税額、ほ脱率、脱税の方法・動機等からして、悪質な事案であり、そうした脱税を率先指示して行わせた被告人行方の刑事責任は重いというべきである。

一方、ほ脱された本件二期の本税については既に完納され、重加算税等についても、差し押さえられた財産等によりある程度の納付が見込まれること、秘匿された手数料等の簿外資金約一七億円のうち、約五億円を海外でのゴルフ場開発のため投資したほか、被告会社の経費として費消したが、残った約一〇億五〇〇〇万円については公表することとして、平成二年一一月にはうち約四億八〇〇〇万円を現実に被告会社の売上げとして計上するなど、本件後申告する態度を示し、しかし右計上直後査察調査が入ったため、結局右残った資金は本件脱税分の納税等に充てられていること(なお、弁護人は、秘匿した簿外資金についても、被告会社では当初からいずれ公表し申告する積もりであった旨主張するが、右金額が多額となって発覚が心配となり、さらに、経費も膨らんだため右簿外資金を公表し経費等に使おうとしたもので、当初から公表を意図していたものとは認められない。)、本件後ゴルフ場の売上げが急激に減るなどしたため、被告会社は現在事実上破産の状態にあること、被告人行方については、逮捕以来相当期間身柄を拘束され、脱税について反省の態度が見られ、これまで前科前歴もなく、家族の状況等に関し酌むべき事情もあること、など被告人らに有利な情状が存する。

以上の各事情及びその他諸般の情状を考慮し、主文のとおり量刑した。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 松浦繁 裁判官 朝山芳史 裁判官 山口信恭)

別紙1 修正損益計算書

<省略>

<省略>

別紙2 修正損益計算書

<省略>

<省略>

別紙3

脱税額計算書

(1) 自 昭和63年9月1日

至 平成元年8月31日

株式会社メモリアル

<省略>

(2) 自 平成元年9月1日

至 平成2年8月31日

株式会社メモリアル

<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例